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ne sole ne luna


「セニョール エ セニョール、本日は感謝の気持ちをこめて、一風変わった催し物を用意致しました。
お楽しみください!」
戦前からこの土地に建ち続ける豪邸から、ドレスアップされた男女が談笑しながら現れる。
手入れされた庭園は夜霧に霞まないようライトアップされていた。
石柱の立ち並ぶ入口に、2台バンが停車する。
中からは濃い化粧と艶やかなドレスを身にまとった女と、楽器を持った少年が出てくる。
少年隊が伝統的な舞踊曲を奏でると、女たちは踊り始める。
風になびく衣装は幻想的なのに、誘う女の仕草はひどく現実的に見える。
満腹な男女は求めるために、擬似的倒錯を作り出すことに血道を挙げる。
何人かの男は、かっちり結ばれたタイを女に引かれて、踊り出していた。
所々からアモーレ、と煽る声が飛ぶ。
「あのアコーディオンの少年、可愛いね」
腹に水球でもため込んだかのような男が、グラスを回しながら言った。
「あら本当、中国人かしら」
頬の削げた、首のあたりに年齢が出はじめている女が返す。
太った男が、近くの司会者を呼びつけ、クロマティック・アコーディオンを弾く少年について尋ねる。
「いいえ、確か日本人ですよ」
「めずらしいね。もちろん、お持ち帰り出来るんだろう?」
「大変申し訳ございません、セニョール。あれは大蛇の子飼いの子どもでして」
男は不服そうに鼻を鳴らした。
「裏顔か。惜しいな」
機嫌を損ねては堪らないとばかりに、司会者は他の少年や女についての説明を始めた。
勝手に見定められていた少年は、澄ました顔で鍵盤の指を滑らせる。
先ほどから熱い視線が注がれているのを無視するように。
その瞳の一つが、焦がれ続けている肉親と似ていることを、無視するように。
「気分が乗らない?」
腰かけていたバンの中から、声がかかる。
グループの中で一番人気の踊り子は、真っ赤なドレスに身を包み、出番を待っていた。
「別に」
ぶっきらぼうに言いながら、はやるテンポを抑えきれていない少年が可笑しくて、女はからかいたくなった。
「あの銀髪の男、ずっとサスケを見てる」
「あいつだけじゃない」
サスケと呼ばれた少年は弾き続けた。もうすぐ難しい速弾きパートがくる。
「買われないのに、みんなの視線奪って。女の子たち、怒るわよ」
サスケは和音を思い切り叩いてから、流し目でニヤリと笑った。
「あんたには、敵わねぇよ」
女は紅が引かれた唇を引き、生意気な少年の頭を撫でた。
「遊んで来てあげる」
大きく空いた背中を見せつけながら、女は手を振った。
今まで踊っていた女たちはそれを見て真中にスペースを空けるように散る。
中央に陣取ったスターは腕を頭上に伸ばし、美しい体のラインを見せつけた。
「本日のメイディッシュ、紅の登場です!」
司会者が叫ぶと、マンドリンから始まる情熱的な音楽が流れ、紅はフラメンコに似たダンスを踊り始めた。
魅力的と言うよりも、息を飲むような迫力に酔った観衆の目が覚める。
地を揺らすステップに、口笛と指笛が飛ぶ。
日常の憂鬱は忘れさられ、ああここがローマで良かった、と何故か思わされるのであった。
一通りソロが終わると、周りの女たちはまた男共を誘い出す。
紅は腰を揺らめかせながら、見定めるように観客の眼前を練り歩いた。
男は下卑た笑いを浮かべながら、チャオ、と声を掛けたりしている。
やがて銀髪の男の前で立ち止まり、タイをグイと引いた。
男は何故主賓でない自分が誘われるのかわからない様子だったが、応じないわけにもいかず、誘われるまま狂乱の中に紛れ込んだ。
名の知られていない若者が女の目に留まったことに誰もが嫉妬したが、二人の踊る姿は艶めかしく、作品のように完成されていた。
男の長い指がシナモン色の肌を液体のように伝う。
しかし視線はサスケを捉え続けていた。
サスケはその指が自分の体を這うような錯覚を受けた。
負けてたまるか、とばかりに漆黒の目で見つめ返す。
ドラムの音が追い詰めるように夜空を駆ける。





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09.3.21

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