アウトソーシング IH







ne sole ne luna


広い砂地には、大きな遊具が味気なく置いてある。
メリーゴーランドやら飛行塔は、まだ夕方なのに電源が入っていない。
その先の掘立小屋の戸をノックすると、眼鏡を掛けた青年が出てきた。
「サスケ君、しばらくぶりだね」
「大蛇丸はいるか」
男は溜息をつき、肩を竦める。
「まったくアポイントも取らずに、君は運がいいね。今日はいらっしゃるよ」
サスケは男に目もくれないように中に入っていった。
質素な外観とは不釣り合いな、アンティークの椅子に腰かけた男の顔がロウソクで照らされている。
「おかえりなさい、サスケ君。もっと近くに来て」
しゃがれた声で言いながら、白く塗られた手を差し伸べる。
サスケは先ほど盗んだ高級時計を手渡す。
「アラ、いい時計。傷も少ないし、いい値で買い取ってあげるわ」
カブト、と青年を呼びつけると、金額を耳打ちした。
カブトはそのまま金を用意しに別室に消えた。
サスケはそのままポケットに手を入れて下を向いた。
「君は、盗みなんてする必要ないのに」
黒い直毛を垂らして、男は肘を付いてサスケを斜めに見る。
舐めるような視線が、私が買ってあげるのに、と言っているようだった。
「黙れ、ホモヤロー」
思い切り睨み返すと、喉で笑われた。
そして鋭い目線で見返される。
サスケは背中がゾクリとするのに息を呑んだ。
「近くに来いと言ったろ」
低い声で言われて、目を反らす。
従うことなんて出来ない。
見かねたように大蛇丸は椅子から立ちあがってサスケの首を掴んだ。
「可哀想に。怯えているのね」
「黙れ」
「フフ、いいのよ、それで。君はね」
首にかかった手の爪を喰い込ます。
サスケの顔が歪むのを満足そうに眺めてから、大蛇丸は猛る自分を静めるように体を放し、椅子に手を付いた。
サスケはアハハァ、と笑う不気味な背中を睨み、まだ冷たい感触の残る首を撫でた。
「大蛇丸様、用意しました」
カブトが手に持つ金を奪うと、サスケはドアを思い切り閉めて出て行った。
その様子に呆れながら、カブトは言う。
「そんなにあの子を甘やかしていいんですか」
「フフ、あの子は特別よ。切り札だもの。
それにあの奔放さ、なんとも言えないわねぇ」
大蛇丸の愛情は歪んでいた。
初めはその美しさと利用価値から囲っていた子どもが、野望を果たしつくせないこの世界に対するフラストレーションへの捌け口になっていた。
いつまでもこのしがらみだらけの日常に囚われていて欲しい。
傷つき、乱れる獣は美しい。
「ナルトくんもいるんでしょう。二つ、電源入れてあげなさい」
カブトは主人の甘さに黙って従うしかなかった。

電源の入ったメリーゴーランドと飛行塔がくるくる回る。
夜にその姿は映えた。
光を散らしながら、バカみたいな音楽を鳴らして回る。
「サスケ乗んねーの?」
サスケは手を振り上げて断わりを告げる。
はしゃぐナルトを眺めながら、敷地を囲む柵に寄りかかった。
もう少ししたら、自分はまた家に帰らなくてはいけない。
そして自分の影を見つめ続け、耐える。
変えようもない外側を遮断し、内側に意識を飛ばす。
心の中で影の蝶や犬が戯れている。
そいつらは自分が作り出したものなのに、永遠にのけ者だ。
さようならバンビーナ。
回る遊具にオレは乗れない。






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09.3.21